起たたない御曹司君の恋人は魔女

「部長! 」


 結沙が勇の傍に駆け寄ろうとすると、見えない壁が遮った。


「な、なに? 」


 見えない壁に、結沙は驚いた顔をしている。


「邪魔はさせないわ・・・」


 低い声で女性がボソッと言った。


 その声に、結沙は振り向いて女性を見た。


 長い前髪が目を覆ってよく顔が判らない女性。


「・・・君は、誰? 部長と、何か関係があるの? 」


 結沙が尋ねると、女性はフッと笑った。


「た、助けてくれ! 」


 勇が叫んだ。


 遠くからサイレンの音が聞こえてきた。


 救急車とパトカーがやって来た。



「救急車・・・来てくれたの。・・・貴方の為に、助けに来てくれたようね。・・・」


「助けてくれ。頼む、この通りだ。ちゃんと言うから、警察にも話す。だから、助けてくれ」


 悲願する勇を女性は鼻で笑った。


「今らさ言うの? 自分はひき逃げ犯だと」

「ああ、ちゃんと話す。だから・・・助けてくれ・・・」



 女性はじっと勇を見ている。



「ひき逃げって、もしかして。君は事故で亡くなった人の、家族の人? 」


 女性は何も答えない。


「・・・そっか・・・。あの、家族の人なら伝えたい事があるんだけど」


 ん? と、女性は結沙を見た。


 と・・・


「チッ。邪魔が来たわ・・・アンタも逃げた方が良いわよ」


 フッと女性は消えた。


「え? 消えた・・・」


 勇は地面に落ちた。


「あ! 部長! 大丈夫ですか? 」

 結沙が駆け寄りると、勇は真っ青な顔をして目を開けた。



「大丈夫ですか? 」

 数名の警察官がやって来た。

< 32 / 84 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop