起たたない御曹司君の恋人は魔女

「もういいよ・・・リラさん・・・。ううん、イディス・・・」


 呼ばれてリラはハッとなった。


「この感触・・・間違いない・・・それに、俺のモンがしっかり反応している。前のビルの屋上で会った時も、反応してたから。なんで? って思ったけど。君がイディスなら納得できる。同じ人だから、反応しているんだね」


 
 リラは俯いた。


 俯いたリラの頬に涙が伝った。



「ねぇ。お母さんの最後の言葉、伝えてもいい? 」

「え? 」


「お母さん、救急車の中で伝えて欲しいって、俺に頼んできた言葉があるんだ」

「・・・お母さんが、貴方に? 」

「うん・・・」


 リラはギュッと、結沙にしがみ付いた。


「お母さんは最後に「娘に伝えて。幸せになって・・・大切な娘だから。・・・愛しているから・・・」って言っていたよ。息もとぎれとぎれだったけど、最後までずっと君の事を想っていた。そして俺に「娘をお願いします」って言っていたよ」


 グッと込み上げてくるものがあり、リラは言葉にならなかった。


「やっと伝えられた。何となく、初めて会った時からあの時電話で話した子かもしれないって、感じていたんだ。とても優しい声だったから。ちょっと、誤解されていたけど」


 結沙はそっとリラに上着を着せた。


「そんな薄着してちゃ、寒いでしょう? ちゃんと着てて」


 相変わらず、この人は優しい・・・


 嘘の名前を名乗っていたのに、責める事もなく労わってくれる。

 どうして、こんなに優しい人が居るのに。

 人を平気で殺そうとする人が居るんだろう・・・。


 リラは悲しくなってしまった。


 

 また氷の雪が舞い降りてきた。


「もう終わったんでしょう? 全て」

「はい・・・」

「じゃあもう戻ろう、本当の君に。リラって名前は、偽名何でしょう? だったら、その名前はもう必要ないよ。ここに置いて行こう。これからは、ちゃんと本当の名前で生きてゆこう。それが、お母さんの望じゃないか」

「はい・・・」

「イディス。やっと名前呼べるね」


 結沙はそっとリラの頭を撫でた。
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