Before dawn〜夜明け前〜

恋人以上


いぶきは、シミのついたスカートのかわりにルリママから借りたミニのスカートをはいた。
上はスーツ、下はスパンコールも華やかなミニのタイトスカート。なんともチグハグだ。

まさか、こんな格好で十年ぶりの再会を果たすなど思いもしなかった。
どうにも、気まずい。


「夢、叶えたんだな。NYの弁護士なんだって?」
事務所に通され、二人きりのやや気まずい空気を断ち切ったのは、拓人だった。

「私、アメリカの水が合ってたみたい。
完全実力主義。風祭も、一条も、桜木も関係ない。自分の腕一歩でやっていけるから。

拓人こそ、一条のトップなんでしょ?」

十年ぶりの拓人。顔はぐっと大人びて引き締まり、体もなんだか一回り大きく感じる。
そして何より、スーツが板についていた。

「俺にはそれしかないからな。
一条を守れ。
それが、全てさ」

その端正な横顔には、ありありと疲れが浮かんでいた。まだ、30歳にもならないはずがもっと上の歳に見える。

「さっきはありがとう。
まさか、こんな形で再会するなんて。
私、カッコ悪いわね」

向かい合わせに座った二人に、ふたたび重い沈黙。共通の話題は、十年前の思い出。そんな思い出話に花を咲かせる気もなんだか起きない。

その時、不意にいぶきの携帯が鳴った。

上着から携帯を取り出すと、相手はアメリカのジェファーソン法律事務所のボス、ロバート・ジェファーソンだった。

「ちょっと、ごめんなさい」

いぶきは拓人に断ってソファから立ち上がり、部屋の隅に移動して電話を取った。


『イブ、どうだい、日本は』

「そうね。ソイ・ソースの匂いがするわ。
ボス、何かありました?」

『あぁ。
まずは、コペル社の件、どうだった?』

「大丈夫です。交渉はスムーズに行きそうです」

『なら、よかった。月曜日にはこっちに戻るんだよな?
実はRO社でトラブルだ。イブのパソコンに資料を送ったから見てくれ』

「OK、わかりました。なるべく早く戻ります」

『今、日本は夜か。もしや飯の最中だったか?』

「いえ。でも今まだ、外出中なので、すぐにホテルに戻って、確認します」

『すまんな。
今夜も法律と寝ることになりそうだな』

「構いませんよ。むしろ、燃えます」

『さすがイブ。弁護士の仕事と結婚しただけの事はある』

「結婚したからには、責任とって下さい、ボス。最近、難しい仕事が多くてトラブル続き。スタッフを増やして欲しいです」





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