Before dawn〜夜明け前〜
それに比べて、自分はどうだろう。
父のようなカリスマ性も無く、一条グループを一つにまとめ上げることも難航している。
「拓人…?拓人、どうしたの?
一体どうしたっていうの」
いぶきは、我が目を疑った。
一条拓人の目から涙が零れたのだ。
十年前の別れの時ですら、笑顔で送り出してくれた拓人の瞳から涙が一筋流れ落ちた。
「あなたらしくないわ。何かあったの?」
「俺らしい、か。
十年。
この十年で俺は自分の非力さを痛感した。
…もう、疲れたよ。俺、何のためにこれほど、命をすり減らすように働いてるのか。
一条の経営方針は、もう、今の時代にそぐわない。わかってくれる奴は、ほとんどいない」
拓人はドサリとソファにその身を沈めた。
「支えてくれる恋人とか、腹心の部下とかいないの?」
「恋なんて疲れるだけだ。恋愛感情なんて、とうに湧いてこなくなった。枯れ果てたみたいに。
優秀な人材もいるけどな、俺が抱える複数の仕事全てに精通するような奴はいない」
こんなに弱って力のない拓人を見るのは初めてだった。
いぶきは拓人に歩み寄り、その濡れた頬に手を伸ばして、涙を拭う。
「私に出来ること、ある?
高校生だった私に、あなたは手を差し伸べて闇から救ってくれた。
今度は、私があなたに手を伸ばす番じゃない?
拓人」
いぶきは拓人に手を差し出した。
拓人はいぶきの手を掴むと、そのまま彼女をかきいだく。
「私、約束どおりに弁護士になったわ。
だから、決して一条家を裏切らず、終生『一条拓人』の陰となり、盾となり、支えていく」
「十年。
長かったよ。
たぶん、あの頃とは変わってしまった。俺もいぶきも。
お前は、もう、俺の陰に立つ人間じゃない。もっと華々しい活躍が出来るんだ。
だから、いぶき。また、はじめないか?
まずは、恋人になろう。
仕事の相談にも乗ってくれ。
全てを最初から積み直そう」
「…恋人?
共に戦う同志でしょ?一番信頼できる相手」
「…まぁ、そうだな。
恋人以前の関係、だな」
「違う。恋人の定義に収まらないほど濃密な関係、よ」
父のようなカリスマ性も無く、一条グループを一つにまとめ上げることも難航している。
「拓人…?拓人、どうしたの?
一体どうしたっていうの」
いぶきは、我が目を疑った。
一条拓人の目から涙が零れたのだ。
十年前の別れの時ですら、笑顔で送り出してくれた拓人の瞳から涙が一筋流れ落ちた。
「あなたらしくないわ。何かあったの?」
「俺らしい、か。
十年。
この十年で俺は自分の非力さを痛感した。
…もう、疲れたよ。俺、何のためにこれほど、命をすり減らすように働いてるのか。
一条の経営方針は、もう、今の時代にそぐわない。わかってくれる奴は、ほとんどいない」
拓人はドサリとソファにその身を沈めた。
「支えてくれる恋人とか、腹心の部下とかいないの?」
「恋なんて疲れるだけだ。恋愛感情なんて、とうに湧いてこなくなった。枯れ果てたみたいに。
優秀な人材もいるけどな、俺が抱える複数の仕事全てに精通するような奴はいない」
こんなに弱って力のない拓人を見るのは初めてだった。
いぶきは拓人に歩み寄り、その濡れた頬に手を伸ばして、涙を拭う。
「私に出来ること、ある?
高校生だった私に、あなたは手を差し伸べて闇から救ってくれた。
今度は、私があなたに手を伸ばす番じゃない?
拓人」
いぶきは拓人に手を差し出した。
拓人はいぶきの手を掴むと、そのまま彼女をかきいだく。
「私、約束どおりに弁護士になったわ。
だから、決して一条家を裏切らず、終生『一条拓人』の陰となり、盾となり、支えていく」
「十年。
長かったよ。
たぶん、あの頃とは変わってしまった。俺もいぶきも。
お前は、もう、俺の陰に立つ人間じゃない。もっと華々しい活躍が出来るんだ。
だから、いぶき。また、はじめないか?
まずは、恋人になろう。
仕事の相談にも乗ってくれ。
全てを最初から積み直そう」
「…恋人?
共に戦う同志でしょ?一番信頼できる相手」
「…まぁ、そうだな。
恋人以前の関係、だな」
「違う。恋人の定義に収まらないほど濃密な関係、よ」