Before dawn〜夜明け前〜
いぶきのスカートのシミ抜きを終え、なんとか着れるようになった。
事務所から、会話は聞こえない。やけに静かで心配になり、ルリママはそっとドアの隙間から、中をうかがった。

二人が夢中で唇を合わせているのに気づき、ルリママは事務所のドアをそっと閉めて、フロアへと戻る。


「元サヤに、おさまりましたか?」

黒川の言葉に、ルリママは小さくうなづく。

「全く、一条の御曹司、最高のタイミングで来店してくれて、よかったわ。すごい偶然」

「偶然?まぁ、あのバカなヤクザに出くわしたのは偶然でしたけど、拓人は違う。

昼間、お嬢とIJソリューションズに行ったことを拓人が気づいて、久しぶりに会えないかと、誘いのメールがありましてね。
念のため、オヤジに相談して、今、こうなった、というわけです」

黒川は、水割りのグラスをあおる。

「ほっとした顔してるな、黒川。

風祭の件で、お嬢が俺んとこに来ることも、桜木は読んでいた。

今回の目的だった鈴木工務店にいた久我、だっけ?そいつがIJソリューションズに引き抜かれていることも、俺、昨日のうちに調べて桜木に報告済み。
もちろん、IJソリューションズが一条グループだということも、久我とかいう奴が光英学院出身だということも、桜木は知ってる。

桜木には、全部お見通しさ。全く、相変わらず食えん男だ」

矢野がふうっとタバコの煙を吐く。

「じゃ、策士の桜木さんに乾杯しましょ」

ルリママ、矢野、そして黒川がグラスを合わせた。アメリカにいる桜木に思いをはせながら。









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