Before dawn〜夜明け前〜

Giselleを出て、ルリママと矢野とは別れた。

やってきたのは、ホテル「ストリーク」。
現在拓人はここに住んでいる。

「じゃ、オレ、下の階に部屋を取ってありますから」

黒川がいぶきの荷物を拓人に渡す。

「黒川、少し一緒に飲まないか?」

「冗談だろ、拓人。
十年ぶりに男と女が会えたんだ、やるこたぁ、一つだろ?
今回、お嬢には時間がない。わずかな時間も大切にしてくれ」

いぶきは荷物からパソコンを取り出して、早速メールに目を通している。
そんないぶきを横目で見ながら、黒川は拓人の肩をポンと叩いた。

「お嬢を頼む」

黒川が部屋を後にする。


二人きりになって、拓人はいぶきを後ろから抱きしめた。

「いぶき。少しだけ君の時間を分けて」

いぶきは、パソコンから拓人に視線を移す。

「拓人の時間も、ちょうだい」

いぶきは手を伸ばして、体をよじり、拓人に抱きついた。




十年ぶりに重ねたとは思えないほど、二人の肌はしっとりと馴染んだ。

拓人のクセも、いぶきのクセも、互いの体が覚えていた。そしてその変わらないクセが二人から十年の隔たりを消す。

毎日のように、夢中で抱き合ったあの日々が蘇る。


あの頃私たちは、なかなか言葉にしなかったけど、確かに愛し合っていた。
心も体も結んでは、愛を確かめあっていた。

忘れていない。忘れられるハズがない。

だって、俺は。
だって、私は。

あの日々をもう一度手にしたくて、この人を待っていたのだ。



いぶきは、拓人の腕枕でそっと瞳を閉じた。
これは、一夜の夢。明日になれば、二人、また別々の道。

拓人の手が、いぶきの鎖骨の辺りで鈍く光るネックレスに触れた。

「つけていてくれたんだな」

「拓人も」

いぶきも、拓人の胸元を飾るお揃いのネックレスに指を絡めた。



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