Before dawn〜夜明け前〜
鬼神の娘
いぶきは、仕事を終えて、日本を飛び立った。
離陸してすぐにパソコンを広げて仕事を始めるいぶき。
「黒川、いつもこうなのか?」
いぶきの隣の席。拓人が反対隣にすわる黒川に問う。
「まぁ、こんなもん、かな。
拓人こそ、大丈夫なのか?」
拓人もタブレットを手にしている。
日本は、月曜日が祝日だった。それを利用して、拓人もいぶきと同じように弾丸スケジュールでアメリカに行くことにした。
拓人の目的はただ一つ。いぶきの父、桜木一樹に会うことだった。
無理に作った時間。拓人も飛行機に乗り込む直前まで仕事をし、今も、タブレットで資料を見たりしているが、いぶきはそれを上回る仕事量だ。
「お嬢、お席、代わりましょうか?」
しばらくした頃、黒川がいぶきに声をかけた。
いつしかいぶきに寄りかかり、拓人が眠っていた。
「大丈夫」
いぶきは、ずり落ちた拓人のひざ掛けを引き上げると、またパソコンに向かう。
「だけど、窮屈ですよね?」
「いいの。
だって、うれしいの。
一条拓人の隣にいられるなんて。
温もりも、寄りかかる体の重さも、全て幸せなの」
そう言って浮かべた穏やかで幸せそうないぶきの微笑みは、黒川の胸を打つ。
桜木と一緒の時に浮かべる安心した表情とは違う。
恋をしている女の子の顔。
いつも冷静沈着で、最強の弁護士。
クールビューティと言われるいぶきとは別人のようだ。
飛行機は順調にアメリカへと着いた。
三人は迷う事なくまずは桜木が待つ自宅へと向かう。