Before dawn〜夜明け前〜
いぶきはそんな二人のやり取りに、ふっと笑う。

意外とこの二人似ている。

世の中、思い通りにならないことが必ずある。
だが、それを克服して思い通りにする。そんな力に恵まれた二人。

「ストップ。
OK。二人とも、わたしの話を聞いて」

いぶきは一樹と拓人の間に割って入った。

「まず、第一に、私はアメリカを離れるつもりはないの。
仕事は充実しているし、大切なお父さんもいる。今のこの生活に満足しているの。

第二に、私はそもそも一条の為に弁護士を目指した。拓人の右腕になる為にね」

一樹も拓人も大きくうなずいた。

「私はね、“桜木いぶき”であることに誇りを持っているの。父の娘であることは、何より幸せ。

拓人。
アメリカから離れずに、でもあなたのサポートをする方法は、ない?」

飛行機の中でずっと考えていた。
いぶきが最大限にその力を発揮できる舞台。
拓人が提案する。


「一条商事。
一条グループの頂点で、屋台骨。
俺が副社長だ。まだ実力が伴わなくて名ばかりの役職だがな。
アメリカ支社がこのNYにある。

そこを拠点に、いぶき、俺と一緒に戦ってくれないか」


いぶきは大きく目を見開いた。

彼の力になれる日が来たかもしれない。
胸がざわついた。


「ボン。
仕事もいいんだがな。

いぶきには、幸せな結婚をさせてやりてぇ。カタギの平凡なフツウの女が手に入れるような安定した幸せな結婚を。

お前にゃ、できねぇだろ。

いぶきを手元に置けば、“桜木組元組長桜木一樹の娘”って悪い評判ばかりが表に出る。

お前には、守れまい」


拓人を試すような一樹の言葉。



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