Before dawn〜夜明け前〜
いつしか、窓の外は暗くなっていた。
明かりもつけていないベッドルームも、真っ暗だ。
窓に打ち付ける雨音が聞こえる。
いぶきは、ゆっくりと体を起こした。
これで、おわり。
これは、夢だから。
このひと時、彼が欲求を満たす為に後腐れ無い女として、選んでくれただけ。
「…帰ります。
あまり遅くなると、旦那様に叱られますから」
いぶきは床に散らばった衣服を身につけようと、ベッドから降りようとした。
そんないぶきの背中を不意に拓人の手が触れる。
いぶきの体がビクッと震えた。
「この傷が更に増えるのか?」
「…見ないでください。こんな汚いもの」
いぶきは、慌てて近くの毛布を体に巻きつけ、床にしゃがみ込む。
その体は僅かに震えていた。
恐らく、幼い頃から叱られては折檻されていたのだろう。背中の酷い傷跡がそれを物語っている。
そんな様子を見て、拓人は自分の服のポケットから携帯電話を取り出した。
「あ、風祭さんのお宅ですか?一条です。
先程はお邪魔致しました。
えぇ、火傷の方は問題ありません。
ただ、ついでだったので、使用人の方に夕飯だけじゃなく、風呂掃除に洗濯の取り込み、部屋の掃除までやってもらいまして。助かりました。
少し戻りが遅くなりますけど…よろしいですか?そうですか、ありがとうございます。
では、失礼します」
会話の内容に、いぶきは驚いて拓人を見た。
「もしかして、助けてくれたの?
叱られなくても済むように」
「背中に新しい傷をつけて、俺に抱かれる気か?」