Before dawn〜夜明け前〜
アメリカ。桜木邸。

「旦那サマ!落ち着いて!」

「うるせぇ!離せ、マリア。
これがじっとしていられるか!
日本に行くぞ、すぐに支度しろっ」

一樹は点滴をむしり取り、ベッドから降りようとしてマリアに止められていた。
いぶきが風祭玲子に刺されたとの知らせが届いたからだ。

「ダメ!日本に着く前に旦那サマ死んじゃうヨ!」

「旦那様!お電話です。一条拓人様から」

そこへ執事が一樹に受話器を差し出す。
一樹は奪い取るように受話器を手にした。


「拓人か?テメェ、どの面下げて電話してきやがったんだっ!?」

『言い訳はしません。
自分が側にいながらこんな事になってしまいました』

電話の向こう、拓人の声はひどく落ち着いていた。

「いぶきの怪我の具合はどうなんだ?」

『とっさに刃物を避けていて傷はそれほど深くなく、急所も外れています。
今は、眠っています』

「そうか。そりゃ、不幸中の幸いだ」

『桜木さん。
今回の事で黒川を筆頭に桜木組の組員たちがひどくざわついています。黒川に至っては、風祭を皆殺しにしそうな勢いです』

「黒川も何をやってたんだ。
アイツが居ながらこんな事になるなんてよ」

『事件の時、黒川はいぶきの指示で遠方で所用を済ませていたんです。現場にいなかった。
アイツを責めないでやって下さい。

お気持ちは分かるのですが、弁護士といういぶきの立場もありますし、彼らを落ち着かせてもらえませんか?』

「一条のボンが風祭を押さえられるか!
風祭を葬るみてぇな汚ねぇことは、俺らに任せとけ、拓人。心配するな、こっちはプロだ。上手くやる。
いぶきの立場を悪くさせたりはしねぇよ。任せとけ」


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