Before dawn〜夜明け前〜
『違いますよ、桜木さん。

闇を照らす光になるはずだった命。
皆を無上の幸せにするはずだった命。
父親として、俺が最初で最後に出来ること。

無念を晴らしてやるんです。
生まれて来られなかった無念を。
ただじゃ済ませません。死ぬ事よりずっと辛い日々を味合わせてやる。一生闇の中で這いつくばってればいい…!』

その声はわずかに震え、低くかすれ、怒りを堪えていることがわかる。拓人の血反吐を吐くような悲痛な台詞に、さすがの一樹がゾクリとした。

そして、その言葉の意味に愕然とする。

「まさか、子供が…?
そうか…なんて事だ…くそっ!!!」

『俺に任せて下さい、桜木さん。

出来る事なら今すぐ飛んでいって土下座して桜木さんに詫びを入れたい。

ですが。

俺は一条拓人。一条家を背負う者。いかなる理由があったとしても、トップに君臨する俺が人に土下座をするようなことがあってはならない。
俺が土下座をする時は全てを失う時。
だから、詫びるくらいなら、何倍もの利を上げて恩を返せばいい。

それで、いいですよね、桜木さん』

電話越しにも、その強い力を感じた。
恐らく父親と同等、いやもしかしたらそれ以上のカリスマ性とリーダーシップを兼ね備えた、生まれながらにしてトップになるべき男。

それがこの事件で一気に開花したようだ。

「わかったよ。風祭のこともいぶきの事も、お前さんに任せよう。
黒川たち組の者には俺から話をしておこう」









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