Before dawn〜夜明け前〜
電話から、日本語が聞こえる。たしかに九条の声だ。

「電話、気づかなくてごめんね」

『黒川さんにまで電話しちゃいましたよ〜
今仕事中だから、事務所の電話にかけてって言われました。

高司先生から預かった書類を、原本は今日郵送しました。
データは先程パソコンのメールに添付しましたので確認をお願いしますね』

「ありがとう!助かります」

『それと。
いぶき先生、聞いてください!
副社長ってば、三日連続で接待。
さっきなんて、ホステスの“雪乃”ちゃんから電話があったんですよ。“ステキな夜をありがとうございます、またいらして下さい”だなんて伝言。
一応、伝えましたけどっ!』

「あ、伝えたんだ。無視しそうな勢いだけど…
秘書も大変ねぇ」

電話の向こう、イラついた九条の声にいぶきはつい笑ってしまった。

『もぅ、いぶき先生、笑ってないで何とか言って下さい〜』

「じゃ、伝えて。
私も、ニューヨークでこれからステキな夜を過ごすわって。
なるべく、意味深に伝えてね?」

『分かりました!
副社長がヤキモチ焼くように意味深に伝えますね…って、ヤキモチ焼くような方じゃないか』

「さすが!
あの自信家のこと、よくわかってる。

いつも、ありがとう、九条さん。またね」





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