Before dawn〜夜明け前〜
「やっと終わった」

いぶきは、椅子の上で大きく腕を上げて伸びをする。

そこで、やっと拓人のほうを向いた。

「拓人、家でゆっくり待ってればよかったのに。
飛行機の移動で疲れているでしょ?」


「イブ、そこは察してやれ。
少しでも早く、ワイフに会いたかったんだろ。
新婚だもんなぁ、タク。
じゃあ、後は二人で」

ロバートは、ポンと拓人の背中を叩いて部屋を出ていった。



いぶきの座る椅子の後ろは、全面ガラス張り。
夜景でも見えれば良いが、隣のビルの壁が邪魔して、月の明かりがわずかに届くだけ。

外に目を向けたいぶきはわずかに眉をひそめる。

「いつのまにか、外は真っ暗ね」

「黒川が車を外に回している。
さぁ、帰ろう」

拓人がいぶきに手を差し伸べた。

その手をじっと見つめる。
それからガラス窓の向こうの暗い外をちらりと見た。

「暗いのは嫌いよ。闇に飲み込まれそうになる」

「大丈夫。明けない夜はない。
一緒にいるから。
もう二度と、一人で終わりの見えない闇に飲まれることはない」

差し伸べられた拓人の手をぎゅっとつかむ。

「ありがとう、拓人」

二人はぎゅっと手を握って、見つめ合い、微笑みを交わす。

何があっても、もうこの手は離さない。
一緒に生きて行くから。



ーー私は、なぜ生まれたのだろう。

拓人に出会うまで、いつも自分に問いかけていた疑問の答えがここにある。

私は、この人と生きるために生まれてきたの。










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