Before dawn〜夜明け前〜
学校という名の修羅場
既に教室には、誰もいない。
いぶきは机の上に置いてあったカバンに手をかける。
だが、掴んだカバンがヌルッとした。
墨汁がべっとりとかけられていのだ。
真っ黒になった手のひら。
巻かれた包帯も黒くなってしまった。
仕方なく、いぶきは洗面所で手を洗う。
包帯はもう使い物にならない。外すために下を向いたその時だ。
「キモいんだよ、青山。
一条先輩や丹下くんの周り、ウロウロしやがって。何様だよ!」
「汚れてるんだろ?これで綺麗になりやがれ!」
後ろからいきなりバシャっと全身に水をかけられた。
複数の女子生徒の笑い声と共に、足音が遠 ざかる。
頭から水が滴る。手で顔の水を払って周りを見ると、既に誰も居ない。
掃除用のバケツが足元に転がっているだけだ。
ーーこれは、着替えないと、ダメだな。
いぶきは、全身から水を滴らせながら、ロッカーに入っているはずの体操服を取り出そうとした。
だが、入っているはずの体操服がない。
クスクスと笑い声がどこからともなく聞こえる。
いぶきは空のロッカーを見つめた。
そもそも、体操服も制服もバザーで買ったお下がりで、たった一着しかない。
いじめに関しては何の感情も湧いてこない。
いつものように、ただじっとやり過ごせばいい。
何をしてもいぶきが何の反応も示さなければ、相手はつまらなくなる。いずれ、いじめより興味があるものが出来て、いぶきのことなど構わなくなる。
だから、放っておけばいい。