Before dawn〜夜明け前〜
「…青山さん!どうしたの!?」
「びしょ濡れじゃん!」

黒川と、丹下だ。

「大変だ。ヒロ、拓人呼んできて。
青山さん、着替えないと。体操服は?」

黒川はいぶきの視線の先、空っぽのロッカーに気づく。

「青山さん?」

いぶきは何も言わない。
ただ、全身から水を滴らせながらロッカーを見つめているだけだ。

黒川は、とりあえず自分のロッカーからジャージを取り出していぶきに掛けてやる。

「何だよ。
何でだよ。

…そこでクスクス笑ってるヤツら。
最低のイジメしやがって。
テメェら、堂々とツラ見せな」

黒川の声色が違う。
燃えるような怒りを押さえきれていない、ドスの効いた声。

「クロ!ダメだ、落ち着け!」

丹下が黒川の異変にいち早く気づく。
生徒会室に向かいかけていたのを止めて、黒川の腕を掴んだ。

「理由もなく他人を攻撃するなんて、ヤクザ以下の悪行だ。
そんなヤツらに礼を重んじる必要なんてねぇよ。
ヤキ入れてやる」

その口ぶり、身体から発せられる威圧感。
それはまるっきりヤクザの脅しのようで、周りの生徒たちの笑い声はピタリと止まる。

いつもの黒川とは、まるで別人のようだ。


「何ごとだ」


ざわざわとしたところへ現れたのは、拓人だ。
手に赤い染みの付いたファイルを持っている。

先程、丹下が理由も言わず、血に汚れたファイルを拓人に渡すと慌てて教室に戻って行った。
その異変に、拓人も様子を見に来たのた。


びしょ濡れのいぶき。
今にも殴りかかりそうなほど、怒りを露わにした黒川。
その黒川の腕を掴んで懸命に止めている丹下。

そしてそんな三人を遠目で見ている傍観者の生徒たち。


拓人は一瞬でその場の状況を判断する。


「丹下、黒川。
青山さんを生徒会室に。
生徒会でイベントに使うポロシャツとジャージがある。それに着替えさせろ。

それと。

理由は問わず我が校でイジメは決して許さない。それは、入学後のオリエンテーリングでもしっかりと伝えたはずだ。
今回の件は徹底して犯人を突き止め、相応の対応をする。

思い当たる生徒は、新しく受け入れてくれる学校を探すくらいの覚悟をしたほうがいい」


拓人の言葉に、明らかに動揺している女子生徒が数人。
その顔をしっかりと覚えておく。

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