Before dawn〜夜明け前〜
「お前らまだこんなところに居たのか!
早く、行くぞ」

後から来た拓人が、足を止めたいぶきの背中を有無を言わせずに押したのだった。

三人の男たちに引きずられるように歩き出し、いぶきは生徒会室でタオルと着替えを渡された。
彼女が隣の資料室で着替えている間、黒川と丹下が拓人に先ほどのいぶきの様子を話す。


「拓人。
どうするんだよ、あの子。このままじゃ、ヤバいぞ。壊れちまう」

「先輩なら、助けられますよ?」


「…」

拓人は、ドアの向こう、いぶきの気配を伺う。

風祭の厄介者。
風祭から引き離すことは可能だ。だが、まだ高校一年生、未成年の彼女に一人で生きる術はあるだろうか。

その答えを早急に探さなければまだ動く訳にいかない。
とりあえず今、拓人に出来るのは、学校に安心して通えるようにすること。

まずは、そこからだ。



「…着替え、ありがとうございます」

着替えを済ませたいぶきが、ドアを開けた。

「私、もう帰らないと。
こんなに遅くなって…叱られるから」


「いや、君はこれから指先の怪我の手当てをする。医者には連絡済みだ。
それから、車で送る。大丈夫、俺が付いていく。
風祭だって、俺が一緒なら何も言わないだろ」

「…でも。
私、保険証無いんです。
治療に払えるお金もありませんから、いいです」

いぶきは、眉をひそめる。
はい、とは言えない。拓人に迷惑かけることに、申し訳ない気持ちが大きい。

そんな彼女に、拓人はあの切り札を告げる。

「言い訳は、聞かない。

お前は俺の言いなりのはずだ、いぶき」


この言葉は、いぶきの後ろめたく感じる心に、理由をくれる。
秘密を守るために、この人の命令を聞かなければならないのだ、と。

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