Before dawn〜夜明け前〜
翌日から、衣替えの移行期間になった。
この時期は生徒会が朝、校門に立って風紀のチェックをする。
拓人も朝から爽やかな笑顔を振りまいていた。

「おはよう、ネクタイが少し曲がっているよ」

女子生徒は、拓人と話がしたいが為に、わざと少しだけ制服を乱してくる。拓人もわかっているから、厳しく取り締まったりはしない。

「会長、あと、3分程で時間です」

「あぁ」

ちらりと腕時計を見て、拓人は校門の外を見渡す。
まだ、いぶきが来ていない。
昨日、酷く濡れて、指も数針縫ったから、休みだろうか。

走り込んでくる生徒たちを目で追いながら、拓人は目をこらす。
すると、走ることもせず、ただ黙々と歩いてくるいぶきの姿を確認した。

「閉めるぞ!急げ!」

門扉を閉め出した副会長の久我の手をとめる。いぶきが門をくぐったと同時に拓人自ら門を閉めた。

「遅いじゃないか。君、一年A組の委員長だろ?」
久我がいぶきの肩に手を置いた。
一瞬、いぶきが顔をゆがめる。

「すみません…気を…つけます」

いぶきの顔がひどく青ざめていた。

「早く、教室にいきなさい」

拓人はいぶきの様子がおかしいことに気づいて、深く追求せずに解放した。

いぶきが、ちらり、と拓人を見る。

ーー拓人、助けて…

言葉になんてできない。

いぶきはすぐに目を伏せ、歩き出そうとしたが出来なかった。
足元がくらりとして、すぐ側にいた久我の腕を思わずつかんだ。

「お、おい、大丈夫か?…君、熱があるんじゃないか?」

とっさにいぶきの体を支えた久我は、制服越しにいぶきの体の熱さに気づいた。

「大丈夫です。すみません、ちょっと、ふらついて」

「保健室に連れて行こう。
久我、あとは、頼む。ほら、アイツは遅刻だぞ」

久我から引き剥がし、いぶきの体を支えると拓人は、門の外を指差した。

「歩けるか?
すごい熱じゃないか。昨日あんなに濡れたから…」

拓人の声に、いぶきは気が抜けてホッとした。
途端に足が動かなくなり、気が遠くなって…

意識を手放した。



「イヤーッ!一条先輩がっ!」
「ちょっと。あの子、誰よ!」
「一年生じゃないっ!キィーッ!!」

いぶきを抱き上げた拓人の姿に、校舎から女子の叫び声。だが、いぶきには意識がなく、そんな声も聞こえはしなかった。

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