Before dawn〜夜明け前〜
「拓人〜できたわよ!
すごいわ、驚くわよ〜」

ジュンに連れられて来たいぶきは、深紅のドレスを身につけていた。
豊満なバストを惜しげもなく強調し、ウエストは、キュッとくびれている。深いスリットからチラチラ見える足も艶かしい。

いつもの野暮ったい三つ編みはゆるいウエーブになり、背中で波打つ。そして化粧は薄いのに、別人のように映えている。

「あの、これ、どういうこと?」

さすがの拓人も、その出来栄えに言葉を失っていた。
話しかけられた声がいぶきだと気づかなければ別人のようだ。

「さすがは、銀座No. 1ホステスの娘。磨けば光るじゃないか」

「でしょ〜アタシもビックリよ!
こんな子、初めてよ。あんまり変身するからワクワクしちゃう」

いぶきはといえば、鏡に映った自分に驚きを隠せない。

「これが、わたし…?」

不安そうに、鏡の前で落ち着かない。
ドレスをいかにも『着せられている』感が出ている。

「思った以上の出来栄えだな。さすがはジュン。
これならパーティでもバッチリだ」

「パーティってあの、来週の一条のパーティ?」

拓人がもちろん、とうなづく。いぶきはビックリして首をブンブンと大きく横に振った。

「何言ってるの?私は使用人よ?
そんな表舞台に行けるわけがない。もう、からかうのはやめて」

「風祭にも、招待状送ったろ?」

「えぇ、届いてるけど。


…何か、考えがあるのね?」

拓人は、何も言わない。
だが、その乏しい表情と言葉を読み取って、いぶきは鏡を見た。

「解放への手段ってわけね」

鏡に映るいぶきの瞳にみるみる強い力が宿る。
その目力は、見るものを引き寄せ、畏怖さえ感じられた。
それまでの自信の無さが消えている。


初めて見たジュンは、思わずゾクリとした。

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