Before dawn〜夜明け前〜
車のバックミラー越しに、黒川の瞳が見えた。
本気で言ってくれていることが、わかる。
黒川なりに、いぶきを闇から救いあげようとしてくれているのだ。


「ありがとう、黒川くん。

でもね、私、自分の力で歩きたいの。
守られる人生より、戦う人生を選ぶわ。

いつか、一条の方から欲しいと言われる人材になってやるの。やり甲斐がありそうでしょう?

今は、まだ夜明け前の暗闇の中だけどね。


明けない夜はない。

それは、黒川くんが教えてくれたことよ。

信じて、頑張ってみようと思う」


いぶきの答えには迷いがなかった。

黒川は、ぽりぽりと頭をかきながら、ハンドルを切る。

「…やっぱ、そうだよなぁ。

…うん。
じゃあ、やっぱり行き先は変更なしだな。

もし、万に一つ、青山さんが俺を選んだら、このまま桜木組に連れ去ろうって思ってた。
たぶん、拓人もそれを分かってて、俺をこの役に選んだんだろうな」


車は会場となるホテルの駐車場に止まった。

「ヤクザがうろついていたらマズイから、俺はここまで。
ホテルのロビーにヒロが居るよ。青山さんが着いたこと、知らせておくから」

駐車場は、薄暗くて黒川の表情は見えない。
だが、声に少し張りがない。


「…ありがとう、黒川くん。
私なんかの為に救いの手を伸ばしてくれたのに。
素直に守ってもらえばいいのに。

私、可愛げがなくてごめんね」


「いや、分かってたから。
そんな強い眼差しをする青山さんが、俺に守られる人生を選ばないって。
俺のことは気にしないで。

さぁ、運命を切り開く為に、拓人が布石を打ってるはずだよ。
青山さん。拓人を信じて、あとは君自身で切り開くんだ。

頑張って!」


運転席から振り返り、黒川がいつもの笑顔でいぶきを送り出してくれた。





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