Before dawn〜夜明け前〜

私の未来を買って下さい


「準備、出来たか?」

ドアを開けて来たのは、拓人だった。
輝くようなブルーグレーのスーツ姿。
いつも以上に威厳に満ち、大人びて見える。

いぶきは何も言えず、その姿に見惚れた。

「あぁ、上出来だ、ジュン。
よく似合うじゃないか、いぶき」

「ありがとう。

それで?私はこの姿で、何をすれば良いの?」

拓人は小さく笑っていぶきに歩み寄り、さながら王子のように手を差し出した。

「ここがお前の人生の大きな分岐点だ。

今までの全てを捨てて、この手をとるか。
今までのまま、風祭で飼い殺されて、生きていくか。

ただ、この手を取れば、決して楽じゃないぞ。
常に戦いの中にその身を投じなければならない。

黒川が与えようとしていた、愛に包まれて守られる人生を選ばなかったお前には、もう、二択しか残っていない」


「決まっている答えをわざわざ尋ねるなんて。
無駄を嫌ういつもの拓人らしくない。
それでも聞きたいというなら、答えるわ。

今までの人生で、失って困るものなんて一つもないの。だから、ためらいなく全てを捨てる。

私は、一条拓人を選ぶわ。戦う人生、上等よ。

それより、拓人こそ、いいのね。私がこの手を取っても。
一条拓人の汚点にならない?」

「それは、お前次第だ、いぶき。
その辺にいる血統書付きの頭カラッポな女どもより、よっぽどお前のほうが良いと、周りを納得させればいいだけさ」

いぶきはコクンと生つばを飲み込み、そっと拓人の手に自分の手を重ねた。

途端に、拓人は力強くいぶきの手を掴むと、ぐいっとその体を引き寄せ、肩を抱いた。

「いくぞ、運命を変えに」

「いやだ、まるでシンデレラと王子様みたいよ。
我ながら最高の出来だわ。
頑張るのよ、二人とも」

ジュンに見送られて、いぶきと拓人は、並んで部屋を出た。

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