Before dawn〜夜明け前〜
「いぶき、会わせたい人がいる。
ここで少し待って」
いぶきはひときわ立派な控え室に案内される。
拓人が、部屋の内線で何かを告げた。
しばらくして、ノックと共に現れたのは、厳しい表情をした、拓人の父で世界の一条グループのトップ、一条勝周だった。
「初めまして。
拓人の父です」
風祭英作など比ではないほどの威圧感。
ただそこにいるだけで、圧倒されそうな存在感。
世界を相手に勝ち戦を続ける将軍とはこんな人物なのかと、初めて知る。
「初めまして。青山いぶきと、申します」
勝周は、いぶきの頭の先からつま先までを一瞥する。
「あまり、時間がないものでね、いくつか質問をするので、答えてほしい。
その際拓人は一切口を挟まないこと。いいね?」
「「はい」」
拓人といぶきはそう返事をすると、勧められるままに、椅子に座った。
「青山さんのご両親は?」
知らぬはずがない。
だが、いぶきの反応を見るためにわざとそれを問いかけてきた。
「父も、母もおりません。
戸籍上の母は、「青山フキ」。銀座で「アキナ」という名でホステスをしていたようですが、物心つく前に亡くなっています。
戸籍上の父は、おりません。
あえて生物学的な父を申し上げるのなら、風祭英作氏ということになります」
表情一つ変えず、落ち着いていぶきは淡々と語る。
「なるほど、では、今は風祭家に身を寄せている、と?」
「風祭家の面々は慈悲深い方々ですから、不義の娘に住む場所だけは下さいました。
その対価に、使用人として働くことを義務付けられています」
どうせ調べてあるに違いない。
いぶきは、事実を語る。
「それでいて、光英学院はじまって以来の秀才だそうじゃないか。
いつ勉強しているんだい?」
「風祭家のご令嬢の代わりにずっと課題をこなしてきました。
…勉強は好きです。
学ぶことだけが、唯一の私の自由であり、表現をする場であり、私の存在価値だと、認識しています」