Before dawn〜夜明け前〜
「私は同じ陰の立場でも、愛人などではなく、これから一条家を背負う拓人さんの片腕となりたい。

私の未来を買って下さい。

私に勉強をするチャンスを下さい。

そうして頂ければ、私は決して一条家を裏切らず、終生『一条拓人』の陰となり、盾となり、支えていきます」

真っ直ぐ、射るような燃える目。

いぶきの淡い色味の瞳は、意志の力にみなぎる。それは人を射るような、強い力。

さすがの勝周が一瞬たじろいだ。


勝周はふと、ホステスの『アキナ』の事を思い出す。

とびきり聡明で美しい女だった。
数々の男たちが彼女に夢中だった。
特に風祭は彼女を落とす為に、かなり尽くしていた。だが、彼女はいつも上手くかわしていた。


確か彼女には、本命がいたはずだ。


勝周は、いぶきの目をじっと見た。


ーーまだ16歳の小娘のくせに、この迫力。
これは、もしかすると、とんでもないジョーカーかもしれない。

このジョーカー、吉か、凶か…

「面白い。
では、君にチャンスをやろう。大学進学もさせてやろう。
何の勉強がしたい?秘書か?」

「いえ。
一条の多角的経営に際し必要なのは、法との兼ね合い。
拓人さんには経営に集中してもらえるよう、私が法律の部分のフォローを請け負います。

私は、弁護士を、目指したいと思います」

勝周は、これまでの会話を反芻しながら、いぶきの目をじっと見た。
その瞳の中の秘めたる力を確かめるように。



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