Before dawn〜夜明け前〜
ドアが開かれると、風祭英作と妻早苗、娘玲子が入ってきた。
「一条会長。本日は、おめでとうございます。
このような素晴らしい式典にご招待いただき、大変光栄でございます」
満面の笑みで英作は勝周に握手を求める。
一方、玲子は拓人の姿を見つけ、嬉しそうに微笑んで会釈し、そして拓人の隣に気づく。
見慣れない、けれど、どこかで見たことがあるような美少女…
「風祭さん、実はご提案があってお越しいただいたんですよ」
握手を済ませると、勝周は単刀直入に切り出した。
「一条会長直々のご提案とは、驚きですな。一体どのような事でしょうか」
英作が、普段どのようにいぶきを扱っているかは調査済みだった。
彼は間違いなく、“青山いぶき”という手駒の価値に全く気づいていないはず。
ならば、そのまま気付かれず、逆に厄介払いが出来ると思わせれば、こっちのものだ。
「近々、内閣改造があるようですね。総理はすでに新大臣の検討をしていると。
そこに、風祭さん、あなたの名前も上がっていると、小耳に挟みましてね」
勝周の情報に英作は破顔する。
噂ではそろそろ、などと言われていたが、一条からの情報とあれば、かなり現実味のある話になる。
「…本当ですか?」
「私としても、同郷の風祭さんには是非とも頑張っていただきたい、と、総理から相談を受けた時に推挙しておいたのですよ」
「…あ、ありがとうございます!」
涙を流さんばかりに深々と頭を下げる英作。あまりのことに、同じ部屋にいる拓人にも、その背に隠れるように立っているいぶきにも、気づく余裕はない。
「だが、大臣となれば恐れるべきものは。
“スキャンダル”
風祭さん。
あなたには確か、奥様とは別の女性ともうけたお子さんがいらっしゃいましたね?」
勝周が切った切り札に、英作の顔はたちまち凍りつく。