Before dawn〜夜明け前〜
「よし、これで、彼女は、今から一条家の人間だ。
あまりパーティを抜ける訳にもいかんからな。
戻るぞ、拓人、青山さん」

「…えっ…??」

風祭家の三人が初めていぶきの存在に気づいた。

拓人にエスコートされてその場にいた美少女。
よく目をこらせば、いぶきだったことにやっと気づいた。


「いぶき、風祭さんに何か伝える事はあるか?」

勝周と共に歩き出しながら、拓人は勝ち誇った笑みでいぶきに言った。

いぶきは、すれ違い様に、風祭家の三人をちらりと見る。

自分でも、不思議なくらい何の感情も湧き上がってこない。

「いえ、何も」

「…な…」

ムッとしているのは、玲子だ。
玲子のものとは比べ物にならないほど華やかで素晴らしいドレスに身を包み、拓人の隣にいるのがいぶきであることが許せない。

あまりに淡々と立ち去ろうとする拓人の腕を掴んで叫んだ。

「一条くん、その子、銀座のホステスの娘なのよ?」

「あぁ、知ってるよ」

「生まれてすぐに押し付けられて…
目つきが悪くて可愛くもないし、気持ち悪いくらい頭だけはいいし…

付き合うなら私の方が、いいわよ?」

玲子のあまりの形相に、部屋に待機していた拓人の護衛達がさっと駆け寄ってきた。

だが拓人は、護衛に待つよう手で指示を出す。

「風祭さん、俺があなたを選ぶことは、天地がひっくり返ってもないよ」

そう言って、拓人はいぶきの腰に手を回し歩き出そうとした。

「私じゃなくて、いぶきなんかを選ぶっていうの?
いぶき、アンタ、さてはカラダで一条くんを落としたわね?
さすがは銀座ナンバーワンホステスの娘、そっちの才能があったのね?」

目を血走らせ、ひどく顔を歪めていぶきを見下す玲子。

だが、いぶきは相手にもせず無表情で玲子を見るだけ。その余裕あるそぶりに、玲子はさらにイライラを募らせる。


「彼女は、一条家の人間だ。
いぶきを貶めるような発言は許さない。

いいか、いぶきは一条に忠誠を誓い、父も認めた俺の片腕となる人間だ。

覚えておけ。
もし、いぶきに危害を加えたり、侮辱でもしようものなら、一条の名にかけてお前を潰すぞ」


拓人の目が光る。その目からは有無を言わせぬ迫力があった。
勝周ほどのカリスマ性はまだないが、充分にその片鱗を感じさせる。


玲子は口をつぐむしかなかった。そんな風祭家の面々はそのままに三人は会場へと戻った。
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