Before dawn〜夜明け前〜
4.七月〜その目の真実〜

面影

もうすぐ、夏休みがくる。



その日、拓人の携帯電話が鳴ったのは夜9時を回った頃だった。

拓人はちょうど風呂に入っていた。
着信は、黒川からだった。
普段の連絡はメールの黒川から電話。急ぎかもしれないと、とりあえずいぶきが電話を取った。


「あ、拓人?よかった、繋がって」

黒川の声が珍しく焦っていた。

「ごめん、黒川くん。今、拓人お風呂なの。
急ぎの用事?」

「あ、青山さん!
うん、実はさ、ヒロのことなんだけど。
あいつ、期末テストの結果が悪くて明日、補講なんだよ。それなのに、こんな時間まで遊び歩いててさ。補講受けないとヤバイくせに。

今、とりあえず取っ捕まえているんだけど。
俺も仕事があるからさぁ、拓人に引き取ってほしくて」

「わかった。
場所は?」

「Giselle(ジゼル)って言えば分かるよ。
なるべく早く、頼むね!」

慌ただしく電話が切れる。


「電話?」

そこへ拓人が風呂から上がってきた。
いぶきが黒川からの伝言を伝えると、拓人は特大のため息をついた。

「全く、丹下のヤツにも困ったもんだな。
しょうがない、行ってやるか」

「私も、行く。
黒川くん、かなり困ってたし、何か手伝えることあるかもしれないから。
丹下くん、逃げ出さないように見張る、とかね」

拓人はいぶきに着替えを指示した。


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