Before dawn〜夜明け前〜
ジョーカーの正体
桜木一樹からホテル「ストリーク」最上階のレストランに呼び出されたは、その翌日だった。
要件は間違いなく、いぶきのことだろう。
緊張しながら、拓人といぶきは約束の時間よりかなり早くから、レストランの席に着いていた。
無言で窓の外の夜景を2人で見つめながら、桜木の到着を待っていた。
「よお、待たせたか?」
桜木が、杖をつきながら現れる。
「いえ。
こんばんは、桜木さん」
拓人といぶきは立ち上がって桜木を迎える。
桜木は、小さく笑って一番奥の上座に座った。
桜木が座ると再び個室のドアが開く。
店員に案内されてやって来たのは、一条勝周だった。
「あれ、拓人に、青山さんも?」
勝周は、意外そうな顔をしながら、桜木の向かいの席に着いた。
「久しぶりだな、カツ。
急に呼び出して悪かったな。予定入っていただろ?」
「先輩からなら、いつでも大歓迎です」
あまり笑顔など浮かべない勝周が、桜木に向かって満面の笑みを浮かべることに、いぶきは戸惑う。
「あぁ、大学の先輩後輩なんだよ。
父さんが桜木さんの後輩。
若い頃は2人でよくつるんでたみたいだ」
そんないぶきに、拓人が2人の関係を簡単に説明してくれた。
「意外かい?
ヤクザの跡取りと、名家の跡取り。
後ろに背負うものの質は違っても、重さは似ている。気が合わないはずがない。
学生の肩書きがある間は、気兼ねなく付き合えたんだがなぁ。
今じゃ、こうしてコソコソしなきゃ会えなくなっちまったな」
「先輩には、昔から本当にお世話になっているんだよ。
お体の調子がだいぶ悪いと聞いていましたけど、今日は顔色も良くて、安心しました」
「ありがとよ。
とりあえず、ゆっくり食事をしようや。
ここの自慢の料理を食べさせてもらうよ」