Before dawn〜夜明け前〜
ホテル「ストリーク」は、一条グループが経営している。
特に最上階のレストランの個室は、プライベートも確保される為、とても人気だ。

その個室の中でも特に景色の良い一部屋は、一条グループの商談の場として利用する特別室として用意されていた。

今日はその個室に、桜木、勝周、拓人、そしていぶきが顔を揃え、共に食事を囲んでいた。

だが、和やかな雰囲気なのは桜木と勝周だけで、いぶきは、見た目も美しい前菜の盛り合わせもつつくだけでぼんやりとしている。

「食事の前に、話すか」

そんないぶきの様子に桜木が口火を切る。

「お願いします。
いぶきが気にして、今朝から食事も喉を通らないようなんです」

桜木の言葉を待っていた拓人は大きくうなづいた。


「たかが風祭ごときの庶子を、一条で面倒を見るなんてありえん。

カツよ。
お前は気づいていたんだろう。

アキナの娘が、俺の娘だと」

桜木の言葉に、勝周は肩をすくめる。

「滅多にねだらない息子が、手元に置きたい女の子がいると。この若さで愛人志望の女にでもひっかかったのかと、試しに会って驚きましたよ。

未来を買ってくれと。
勉強するチャンスをもらえれば、弁護士になって、拓人の片腕として一生を一条の為に尽くすと、16歳の小娘がこの私に物怖じすることなく言った。

久しぶりに、しびれましたよ。
青山さんが私を見る目は、真っ直ぐ、射るような意思の力にみなぎっていた。
人を威圧出来るあんな強い目をする人間はそうはいない」

勝周は、いぶきに笑いかけた。

「君の目に、桜木先輩を見た気がしたよ。

確信はなかったし、一条で調べた君の経歴に先輩の影は見つからなかったけれど」

「私の目…ですか。

風祭では、目つきが悪いとよく叱られました。それでいつも前髪やメガネで隠していたのですけれど」


いぶきは、桜木の色味の薄い目を見る。
鏡で見る自分の目に似ているのは、間違いない。


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