Before dawn〜夜明け前〜
「なるほど。
父さんは、いぶきが桜木さんの子供かもしれないって気づいたから、一条で面倒を見ることに賛成してくれたんだ。

父さんの読みが当たったってことか」

拓人は、勝周がいぶきを認めたのは、自分の駆け引きが上手くいったものだと思っていた。
だが父は、拓人の考えの遥か上を読んでいたようだ。

「知っての通り、オレはもう長くはないだろう。
この人生の黄昏どきに、まさか、アキナの娘に生きて会えるなんて、思いもしなかったよ。

こんなに嬉しいことは、ない。

カツ、笑うなよ。
オレは、最後に『親子の時間』ってやつを過ごしてみてぇ。
過ぎてしまった16年って月日は、もう取り戻せやしねぇが、これから俺が死ぬまでのわずかな時間だけでも、父と娘として過ごしたい。
最期のワガママってヤツさ。

ボン。
俺が死んだら、オメェに託すからよ。
今は、彼女を俺の娘にしてくれねぇか?」

拓人を真っ直ぐに見つめる桜木の強い目。
拓人に、否と言わせないその強い意志の力は、いぶきにソックリだ。


やっと見つけた、同士。
側にいるだけで、心休まる相手。
いぶきを手放せば、また、孤独と不安に心をすり減らしながら、一条を背負うべく一人で戦い続ける日々が待っている。


「拓人。

私、弁護士になるから。
一条の方から欲しいって言われるくらいの、最強の弁護士になるから。

弁護士になったら、決して一条家を裏切らず、終生『一条拓人』の陰となり、盾となり、支えていく。

約束は守るから。


信じて、少し待ってて。


私にね、お父さんがいたの。
私と一緒にいたいって言ってくれる。

今更、親子になれるかはわからない。
桜木さんの事も、ヤクザの親分さんくらいしか知らないけど。

でも、親子の時間なんて諦めていた夢だったから」


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