Before dawn〜夜明け前〜
ブティックJUNN
「あぁ、暑いな」
桜木が車から降りて、吹き出した汗を拭いた。
「お父さん、車椅子にする?
杖で大丈夫?」
「あぁ、杖でいい。
車椅子は、店の中で邪魔になるからな。
ボン、ドアを開けてくれ」
桜木の後からいぶきと拓人が車を降りる。
いぶきが杖を差し出し、拓人が店のドアを開けた。
「いらっしゃいませぇ!
待ってたわ、オヤジ。
店に来てくれるなんて、何年ぶりかしら。嬉しいわぁ!」
満面の笑みでジュンが3人を迎えてくれた。
ブティック「JUNN」
アメリカに行くいぶきと桜木の為に、今日は店を貸し切りにして、ドレスから普段着まで、ジュンが用意してくれることになっていた。
「元気そうだな、ジュン。
店は繁盛してるか?」
「おかげ様で。
オヤジは?
この間あった時より顔色いいみたいね」
ジュンが桜木に抱きついて来店を喜んでいる。
「おぅ。
新しい生き甲斐を見つけたんでな。
ジュン、いぶきの事は知ってるのか」
「知ってるわよ〜拓人のシンデレラ!
まさか、オヤジの本当の娘だったなんて〜ドラマみたい。
でも、アタシ、聞いてちょっと納得しちゃったのよ。いぶきちゃんの目力。オヤジに似てるって思ってたから」
「ジュン、凄いな。
まぁジュンの桜木さんへの愛は、尋常じゃないからなぁ」
父だけでなく、ジュンまでいぶきの目と桜木の目の類似に気づいていた。
拓人は面白くない。
だが、そんな事はおくびにも出さず、ジュンをひやかす。
「まぁ、拓人。
オヤジにいぶきちゃん取られてふてくされてるのかと思ったら、案外いつも通りなのね。
相変わらず、可愛くないわぁ。
ま、そうじゃなきゃ、“一条拓人”じゃないんだけど。
さてっと、誰からいこうかな。
じゃあ、いぶきちゃんのパーティドレスから決めていこうかしら。
オヤジと拓人はそっちで採寸ね」