Before dawn〜夜明け前〜
一方。

「あ、いいわね、拓人。
う〜ん、相変わらずいいオトコ」

拓人のスーツの微調整しながら、ジュンが小さくため息をつく。

「それ、桜木さんにも言ってるんだろ」

「んふふ。まあね〜。
でも、まさか、オヤジが相手とはね。
さすがの拓人も完敗かな?」

拓人の顔がキリッと引き締まる。
ジュンを鏡ごしに見る目は、ギラリと燃えるようだ。

「この俺が負ける相手なんていない。

…向こうは父親だ。
戦う相手じゃない」

「拓人は、そうでなくちゃ!
よかった。
ちょっと心配してたのよ。
拓人を理解してくれる女の子がやっと見つかったのに…」

拓人のスーツを整えながら、ジュンがポンと拓人の肩に手をおいた。

「オヤジに早く認められるように大きくならないとね。

でも、寂しいわね」

ジュンの言葉が拓人が隠している心の奥に触れた。
いくら、強がっても、ふとした瞬間にこぼれそうになる気持ち。

「あの二人が渇望している、『親子の時間』は、かけがえのない時間だ。今を逃せば、もう取り返せない。

なぁ、ジュン。
それでもさ、お互いの存在を感じられて、忘れずにいられる方法って、ないかな」


「やだ、拓人…そんな切ない顔、しないでよ。
アタシ、泣きそう。

…そうね。

じゃ、こういうのは、どう?」

ジュンがサラサラと、近くのスケッチブックに絵を描く。
ジュンのアイデアに、拓人も身を乗り出して、さらに付け加えた。

拓人の思いを込めた、プレゼント。
初めての、プレゼントだ。
いぶきが受け取ってくれればいい。


二人の思いが消えてしまわない証になればいい…



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