Before dawn〜夜明け前〜
「拓人…

言ってもいい?

私は、あなたが…
本当はあなたが…」



『…好きなの』



拓人の耳元で、涙をポロポロとこぼしながら、いぶきは人生で初めての恋の告白をした。


「愛とか恋とか面倒くさいんだよね。
ごめんなさい。
でも、もう自分の気持ちを認めずにいられない。

私、拓人と家族になりたい。
仕事もプライベートも一番近くにいたい。

一条いぶきになる未来を、信じたい」


拓人は、ネックレスをそっといぶきの首に付ける。

「確かに他の女と恋愛なんて面倒くさい。
でも、いぶきは別。

俺も、信じてるから。
最高の未来。

それまでは桜木さんの娘として、今までの分も、甘やかされて、大切にされて、愛されておいで。
父親の愛情をたっぷりかけてもらうんだ。

その後は俺が引き受けるから。

桜木さんに負けないくらい、愛してやるから。

だから今は、俺たちの想いは闇に隠しておこう。

…明けない夜は、ないから」


「今は取るに足りない存在だけど。
いつか必ず拓人の人生に不可欠な存在になる。

なってみせるから。

今は、失った親子の時間を取り戻してくるね。

すぐに消えてしまう時間だけど。
幸せを感じるほど、その後は深く暗闇に落ちていくってわかっているけど。

The darkest hour is just before the dawn.
(夜明け前が一番暗い)

どうか、この先の孤独と不安でひろがる闇が
二人で生きる未来への、夜明け前の最後の暗闇でありますように」

今後はいぶきがペアのネックレスを拓人に付ける。

「次にいぶきが俺の手を取ったあとは、二度と闇は来ない。

俺、桜木さんみたいに強い男になるから。

信じて、今を大切にしよう。
だから、もう、泣くな」


二人の胸の上、お揃いのリングが光る。


どんなに離れていても、同じ未来を信じているから。

開けない夜はない。

信じて、前に進むから…











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