Before dawn〜夜明け前〜
暁の気配
日本で風祭の事件は、想像以上に注目を集めていた。
新聞、雑誌の一面には風祭の名前がおどり、テレビでは英作と玲子の写真が四六時中映っている。
空港で思わず新聞を手にしようとしたいぶきの腕を黒川が止めた。
「お嬢、気にしちゃいけません。
ご自分の仕事に集中しましょう」
「…そうね。
ゆっくりしてられないし、行きましょう」
東京。
巨大なビル群の中に、目指す会社があった。
「はじめまして。
わたくし、ジェファーソン法律事務所からまいりました、弁護士の桜木いぶきです」
「…鈴木工務店の件でしたね。
いやぁ、私共も、なにせ資料が少ない上に開発者が転職しておりまして…
せっかくいらして頂いたのですが」
いぶきは時計を見る。
これ以上、ここに居ても無駄だ。その開発者に会うことが最優先。
「失礼ですが、その方は今どちらに?」
「IJソリューションズに引き抜かれました」
「分かりました。お忙しいところ、ありがとうございました」
立ち上がり、その会社を出る。
「お嬢、IJソリューションズにアポ取れました。ただ、担当者の久我(くが)氏は今会議中だそうで…あと30分程で会えるそうです」
黒川がタブレットを差し出す。
そこにはIJソリューションズの会社情報がズラリと出ていた。
いぶきはサッと目を通す。
「OK。
あら?」
事業内容、資本金、売上高といった情報の中に代表者の名前がずらりと並ぶ。
代表取締役会長 一条勝周。
その下に何人かの名前があり、一番下。
代表取締役専務 一条拓人。
懐かしい名前を見つけ、胸が熱くなる。
「一条グループなのね」
「えぇ。
今、一条が一番力を入れている、新しい会社ですよ。
さ、行きましょう、お嬢。30分だと移動時間でギリギリです」