Before dawn〜夜明け前〜
「うわぁ、これは懐かしい!」
開発者の久我は、いぶきが差し出した書類を見て開口一番に叫んだ。
「でもこれ、商品化するにはコストがかかり過ぎますよ?」
「それは、10年前の話です。今回のコペル社は…」
久我は、話をするいぶきの手元から、視線をいぶきの顔に移した。そして渡された名刺を見る。
「久我さん?」
「あぁ、すみません。
あの、失礼ですが、どこかでお会いしたことありませんか?桜木先生」
「いえ…」
いぶきも、久我を見たとき、どこか引っかかるものを感じたが、わからなかった。
「ですよね。アメリカの弁護士先生と知り合いのはずないや。
この件ですが、桜木先生にお任せします。
見たところ、俺の開発したものなんて比べ物にならないくらい良くできている。
あれが陽の目を浴びる日が来るなら俺も嬉しい」
いぶきの顔にやっと笑みがこぼれた。
「では私はこれで」
「じゃ、エントランスまで一緒に。俺もこれから昼休みなので」
久我と共に、応接室を出る。
廊下には黒川が控えていた。
「あれ?」
久我は黒川を見ても首を傾げている。
「あなたは…光英学院高校の生徒会副会長だった…」
黒川がまじまじと久我を見て思い出した。
「君は、よく一条専務のそばにいた一年生だ!
うわぁ、懐かしいな。
じゃあ、桜木先生も光英学院?」
「私、一年生の夏に留学したので、本当に数ヶ月だけしか在学していませんでした」
3人でエレベーターに乗り込む。
「そうか。
アメリカで弁護士なんて、すごいなぁ」
「久我さん、また、何かありましたら、連絡することもあると思いますが…」
「あぁ、いつでもどうぞ」
エレベーターがエントランスに着く。昼時とあってエントランスロビーには、人が多い。
いぶきは、頭を下げて久我と別れる。
「黒川、次は?」
「とりあえず、新宿に移動です。でも、まずメシにしましょう」
黒川といぶきが歩き出す。