Before dawn〜夜明け前〜
矢野法律事務所
「思いの外、早く仕事が終わったわね、黒川。
私、久しぶりに行きたいところあるの。付き合って」
そう言っていぶきがやって来たのは、黒川も良く知っている、古びたビルだった。
「お嬢、ダメです」
黒川がビルに入っていくいぶきを止めようとしたが…
「あれ〜?
黒川じゃねぇか。久しぶりだな。
オヤジになんかあったのか?」
ビルの入り口。
くたびれたスーツに頭は寝癖。手にコンビニの袋をさげた眠そうな中年男性が黒川に声をかけた。
「こんにちは、矢野先生、お久しぶりです」
見つかってしまい、黒川は仕方なく挨拶をした。
「もしかして…隣はお嬢か?
コリャ驚いた。立派になったもんだ。
最後に会った時にゃまだ高校生だったのになぁ。こんなベッピンさんになって!桜木のやつ、目に入れても痛くないだろうなぁ。
ま、とりあえず、上がって」
エレベーターもない、おんぼろビルの二階。埃を被った表札は「矢野法律事務所」
矢野は桜木組お抱えの弁護士。いぶきの戸籍のことや、一樹の財産のこと、風祭のことも全て丸く収めてくれた腕の立つ弁護士だ。
アウトロー気質があり、個人の小さな事務所をやっていた。
「聞いてるよ。
お嬢、弁護士になったんだってな。桜木の悲願も叶ったってコトだ」
いぶきは肩をすくめ、小さく笑うと矢野の机の上のファイルを指差した。
ファイルには、走り書きで[風祭]と書いてある。
「見せてもらって、いいですか?」
「あぁ、構わんよ。気になるだろ」
「ダメです、お嬢。あれほどオヤジに風祭には関わるなって言われたのに」
「関わらないわよ。ただ、現状を知るだけ。
新聞やネットニュースの情報が真実だと限らないから。ここが一番確実でしょ」
黒川の苦言もシャットアウトして、いぶきはファイルを開いた。
私、久しぶりに行きたいところあるの。付き合って」
そう言っていぶきがやって来たのは、黒川も良く知っている、古びたビルだった。
「お嬢、ダメです」
黒川がビルに入っていくいぶきを止めようとしたが…
「あれ〜?
黒川じゃねぇか。久しぶりだな。
オヤジになんかあったのか?」
ビルの入り口。
くたびれたスーツに頭は寝癖。手にコンビニの袋をさげた眠そうな中年男性が黒川に声をかけた。
「こんにちは、矢野先生、お久しぶりです」
見つかってしまい、黒川は仕方なく挨拶をした。
「もしかして…隣はお嬢か?
コリャ驚いた。立派になったもんだ。
最後に会った時にゃまだ高校生だったのになぁ。こんなベッピンさんになって!桜木のやつ、目に入れても痛くないだろうなぁ。
ま、とりあえず、上がって」
エレベーターもない、おんぼろビルの二階。埃を被った表札は「矢野法律事務所」
矢野は桜木組お抱えの弁護士。いぶきの戸籍のことや、一樹の財産のこと、風祭のことも全て丸く収めてくれた腕の立つ弁護士だ。
アウトロー気質があり、個人の小さな事務所をやっていた。
「聞いてるよ。
お嬢、弁護士になったんだってな。桜木の悲願も叶ったってコトだ」
いぶきは肩をすくめ、小さく笑うと矢野の机の上のファイルを指差した。
ファイルには、走り書きで[風祭]と書いてある。
「見せてもらって、いいですか?」
「あぁ、構わんよ。気になるだろ」
「ダメです、お嬢。あれほどオヤジに風祭には関わるなって言われたのに」
「関わらないわよ。ただ、現状を知るだけ。
新聞やネットニュースの情報が真実だと限らないから。ここが一番確実でしょ」
黒川の苦言もシャットアウトして、いぶきはファイルを開いた。