やってきた秋に、舌打ちをした。



「千秋くんは、もう、縛られなくていいんだよ。



私のことなんて、忘れて……も、いいよ」



とめどなくあふれる。



涙?熱?想い?



どれなんだろう。



“私のことなんて、忘れてもいいのに”



そう言いたかった。言えなかった。



どうせ本人には届かないのに。



私の心に、苦しみのインクがのったからだ。



忘れないでいてくれている千秋くんを、“忘れないなんて”と蔑むような言い方、したくなかったんだ。



“忘れて楽になってもいいんだよ”って、あたたかさを祈ったんだ。



だけど。



「日菜乃」



千秋くんが、この数年間見たことがないくらいに、明るくて優しい表情を見せるものだから。
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