やってきた秋に、舌打ちをした。



「日菜乃、俺、ずっとすきだから」



大人になって、5年目。



付き合っていた高校生の途中、私は突然死んだ。



事故といえば事故の一言で片付けられる、たったひとつの大きな事件。



高校生を終え、大人になって、いまもなお……千秋くんは、私を忘れないでくれている。



そして、私は秋にだけ――この世界にもういちど、つま先をつける。



千秋くんのそばに、居たくて。



まじわることのできない世界。足をついているはずなのに、完全には感覚がない。



……だって、話しかけても、隣にいても、高校生の頃には戻れないから。



だから、つま先だけをつけているような感覚なのだ。



……いつか、足の裏全体をつけるようにと、ふっと淡く思いながら。



きっと、もう、私は……千秋くんの隣では笑えない。高校生の頃のようには、笑えないんだ。
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