やってきた秋に、舌打ちをした。



「日菜乃」



突然、バッと、千秋くんが両腕を広げた。



あの頃よりも、広い肩幅で。



長い、腕で。



大きなてのひらで。



「い」の口でふっと息を吐く。



ぎゅっと目を閉じて、瞳を開いて。



世界を、千秋くんを、みつめる。



おずおずと、傍によって――想像していたよりも華奢で、あの頃よりも大きな背中に手を回す。



自分の方へと、その腕を近づける。



すり抜けてしまわぬよう、気をつかって。



「千秋、くん……っ」



一筋。



さっきやっと乾いたはずの頬に、また伝う。



「日菜乃」



偶然だろうか。



……ううん、これは、偶然なんかじゃない。
< 9 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop