やってきた秋に、舌打ちをした。
「日菜乃」
突然、バッと、千秋くんが両腕を広げた。
あの頃よりも、広い肩幅で。
長い、腕で。
大きなてのひらで。
「い」の口でふっと息を吐く。
ぎゅっと目を閉じて、瞳を開いて。
世界を、千秋くんを、みつめる。
おずおずと、傍によって――想像していたよりも華奢で、あの頃よりも大きな背中に手を回す。
自分の方へと、その腕を近づける。
すり抜けてしまわぬよう、気をつかって。
「千秋、くん……っ」
一筋。
さっきやっと乾いたはずの頬に、また伝う。
「日菜乃」
偶然だろうか。
……ううん、これは、偶然なんかじゃない。