恋というのは、いつまでも側にいたいと思う、満たされない気持ちを持つことだと人は言う。
ならばもう2度とこの世界に触れられない彼女にとって、恋はひどく残酷で、儚いものだ。
『キライだ』
そんな陳腐な言葉で涙を隠してしまうくらいに。
きっと千秋は秋が来る度に決して色褪せない彼女の柔らかい声を思い出すのだろう。
そして日菜乃は千秋の温もりをそっと抱きしめるのだろう。
また、秋がやって来る。
もし頬を掠める風が熱を帯びていたら、それはきっと彼女が攫った温もりだ。
そんなことを考えてしまうくらいに、弓削あずきの紡ぐ物語は穏やかで、激しくて、そして切ない。
読者がその世界観に溺れるのも、きっと時間の問題だ。