死りとりゲーム


小さな舌打ちが聞こえた。


その方向を見ると、賢太がさっと目をそらす。


今の舌打ちは、賢太?


私が『コーヒー』じゃなく『ココア』を選んだから?


新田くんは心配しなくていいと言ったけど、私としては少しでも新田くんの負担を軽くしたい。役に立ちたいんだ。


【る】がくる恐れがある言葉よりは、違う物を選んだほうがいい。


だから『ココア』に変えた。


【あ】から始まって【る】で終わるものは__ない。


大丈夫。


賢太は、普通にしりとりをするしかないはず。


しばらく考え込んでいたけど、ゆっくりと職員室を出て行く。


【る】に拘(こだわ)らなければ、いくらでも見つかるだろう。


「さすがにもう、裏切ったりしないよね?」


響子が小声で言った。


「さすがに大丈夫だよ」と、前を行く賢太の背中を見ながら頷く。


着いた先は【調理実習室】だ。


【あ】から始まる食べ物なんて、あったかな?


私が首を傾げて考えていると、引き出しを探っている賢太が顔を上げた。


「僕はずっとイジメられてた。幼稚園の頃からずっと。なにも悪いことなんかしてないのに、小学校も中学校もずっとイジメられてたんだ」


静かに語り出す賢太。


腫れ上がった瞼の奥の目が、怒りに燃えているように見えるのは、気のせい?


< 108 / 261 >

この作品をシェア

pagetop