死りとりゲーム
小さな舌打ちが聞こえた。
その方向を見ると、賢太がさっと目をそらす。
今の舌打ちは、賢太?
私が『コーヒー』じゃなく『ココア』を選んだから?
新田くんは心配しなくていいと言ったけど、私としては少しでも新田くんの負担を軽くしたい。役に立ちたいんだ。
【る】がくる恐れがある言葉よりは、違う物を選んだほうがいい。
だから『ココア』に変えた。
【あ】から始まって【る】で終わるものは__ない。
大丈夫。
賢太は、普通にしりとりをするしかないはず。
しばらく考え込んでいたけど、ゆっくりと職員室を出て行く。
【る】に拘(こだわ)らなければ、いくらでも見つかるだろう。
「さすがにもう、裏切ったりしないよね?」
響子が小声で言った。
「さすがに大丈夫だよ」と、前を行く賢太の背中を見ながら頷く。
着いた先は【調理実習室】だ。
【あ】から始まる食べ物なんて、あったかな?
私が首を傾げて考えていると、引き出しを探っている賢太が顔を上げた。
「僕はずっとイジメられてた。幼稚園の頃からずっと。なにも悪いことなんかしてないのに、小学校も中学校もずっとイジメられてたんだ」
静かに語り出す賢太。
腫れ上がった瞼の奥の目が、怒りに燃えているように見えるのは、気のせい?