俺様課長のお気に入り
恐る恐る玄関に手をかけると、その場の空気を察したのか、ケイ君が前に出てきてハイテンションで翔君を出迎えた。

「ワン、ワワン!!」

「うわっ。なんだなんだ、ケイ。そんなに俺に会いたかったのか?よしよし」

ケイ君のおかげで、ちょっとだけ和んだ……
わけもなく……

「陽菜!真美から聞いたぞ。付き合っているやつがいるんだって?今この部屋にいるんだろ?」

「翔君、落ち着いて。大きな声を出さないで。ちゃんと紹介するから」

ケイ君と一緒に宥めつつ、翔君を追ってリビングへ移動した。
翔君は足を止めると、要君を睨みつけて忌々しそうに言った。

「お、お前か。陽菜と付き合っている、岩崎というやつは」

「はい。陽菜さんとお付き合いさせていただいている、岩崎要と申します」

翔君と真逆で、要君は冷静に言って頭を下げた。

「貴様、よくも大事な陽菜に手を出してくれたなあ」

「翔君、落ち着いてって」

翔君の腕を必死に引っ張ったものの、私の力じゃビクともしない。

「陽菜は黙ってなさい!」

「翔君!私、黙ってなんていられないよ。ちゃんと話を聞いて。
私、要君のことが本当に好きなの。初めて好きになった人なの」

「ひ、陽菜……」

初めて私が大きな声で言い返したせいか、翔君は驚いて動きを止めた。

「翔君。翔君は今まで、本当に私のことを大事にしてくれたよね。そのことを、私すごく感謝してるよ。
私ね、初めて家族以外で大事にしたい人ができたの。それが要君なの」

そう言って要君の隣に立つと、要君がぎゅっと手を握ってくれた。
そして、その傍にはケイ君も来て、要君に頭を擦りつけていた。

「翔さん、陽菜さんは俺にとってかけがえのない存在なんです。一生大事にしていきます」

い、一生って……
要君は、これまで見たことがないぐらい真剣な目をしていた。



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