俺様課長のお気に入り
「よし食べ終えたな。じゃあ行くぞ」

そう言って、要君はさっさと伝票を持って、会計を済ませてしまった。

「要君、私とケイ君の分はちゃんと払います」

「ああ、いい。ちびっ子なんだから、素直に奢られとけ」

「でも……」

「あーうるさい」

「ムムグググ……」

奢られる理由がないと反論しようとしたら、突然要君が大きな手で口を塞いできた。

「それ以上言うなら、キスでふさぐぞ」

とニヤリと笑った。

「キ、キス!?」

「くくく。陽菜には刺激が強すぎたか。素直に奢られとけ。行くぞ」

口をパクパクさせて、あわあわしている私をおいて、要君はケイ君のリードを掴んで歩き出した。

キ、キスって、キスって……

だ、だめだ。
失礼男とは、まともな会話が成り立たない……
と、とりあえず、このことは忘れよう。

我に返って、ケイ君達を追いかけた。


「か、要君、どこに行くんですか?」

「ん?陽菜は行きたい所はあるか?」

「特には……」

「なければ、この先の川沿いに行くぞ。犬を自由に離してやれるエリアがあるんだ」

「わあ、ケイ君が喜びそう。この辺のこと詳しいですね。確か、名古屋支店から来たんですよね?」

「ああ。名古屋に行く前は、こっちにいたんだよ。その時もこの辺に住んでたからな」

「そうですか。こないだ電車も一緒だったし、こう生活圏が被ってるってことは……げっ、ご近所さんなんじゃ……」

「今頃気付いたのか。陽菜はどの辺りに住んでるんだ?」

「さっきのカフェまで歩いて20分ちょっとの所です」

「そうか。俺は10分ぐらいかな」

聞けば、最寄駅も一駅隣の近さだった。

はっ、しまった。
しれーっと個人情報を明かしてしまったぞ。

「おいこら!聞いたからって、お前の家に行く用はないから安心しろ。どうせ、個人情報を話してしまったとか考えてるんだろ?」

「なんで?なんで、私の思ってることがわかるんですか?」

「気付いてないのか?陽菜ってさあ、思ってることが表情に全部出てるぞ」

えっ?

「まあ、素直でよろしい」

そう言って、頭をわしゃわしゃされた。

「ちょっと、ボサボサになっちゃうじゃないですか!!」

「あはは」



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