俺様課長のお気に入り
土曜日。
ケイ君に起こされる前に目が覚めていた。
これじゃあまるで、遠足を楽しみにしている小学生みたい。
要君が知ったら絶対にまたからかわれるから、秘密にしておこう。

朝食を食べて、洗濯や掃除をして、身支度も整えて……
それでもまだ10時前。

「ケイ君、要君が来るまで、まだまだ時間があるね。まだかなあ」

寝そべるケイ君に話しかけると、大きく尻尾を振る。
もう何をしていても〝要君まだかなあ〟って考えてしまう。

そわそわしながら、ケイ君のブラッシングをしたり、特に見もしないのにテレビをつけたりして過ごしていると、スマホがなった。

「もしもし」

「おっ、出るの早っ!俺が来るのを待ちわびてたのか?」

意地悪そうにくすくす笑う要君。

「ち、違うよ。たまたまスマホを触っていたの!」

「ふうん。まあいいや。少し早いけど着いたぞ」

「はあい。すぐ行くね」

ケイ君を連れて外に出ると、要君は先日も乗せてくれた大きな車にもたれて立っていた。

「おまたせ」

「おぅ。おはよう陽菜、ケイ」

「おはよう。今日もお願いします」

要君に頭を撫でられているケイ君は、すごく嬉しそうだ。

「ああ。ケイ、ほら乗るぞ。陽菜も乗って」

「はあい」

「ここから20分ちょっと行った所にあるカフェで、オーナーが犬好きなんだって」

「へぇ。どうやって見つけたの?」

「ん?俺の姉に聞いた。あいつもこっちの方に住んでたことがあって、俺より詳しいから」

「要君、お姉さんがいるんだ」

「ああ。陽菜は?お兄さんだけ?」

「そうだよ。
はあ。要君のお姉さんなら、きっとすごい美人さんなんだろうなあ。だって、要君イケメンさんだし」

「おぉ。陽菜にイケメンとか言われるとは、光栄だな」

おちゃらけて言う要君だったけど、耳がほんのり赤くなっている。

「まあ、美人かどうかはよくわからないけど、俺にとってはめちゃくちゃ人使いが荒くて、怖いだけだぞ」

「要君にも怖いと思う人がいたんだ……」

「どういう意味だ?」

じろりと睨んでくる要君。

「ご、ごめんなさい。なんでもないです」

「ふん。まあいい」
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