哀夢
 わたしは家族の中で浮いていた。堅実な姉達に比べ、自由奔放で、性に対しても奔放だった。母はそんなわたしと会話をしたがらなくなった。
 2度目の自殺未遂はデートの約束が残業のせいで遅くなったときだった。

 100錠で失敗していたので、次は200錠にした。涼介に電話をすると、
「すぐに親に言え!」
と怒られて、仕方なく階下に下りる。
 母に言うと、父に電話されたが、父は
「2階で寝かしとけ!1回死にそうにならなわからん!」
と、言ったらしく、母はそのまま告げた。
「やっぱりね〜♪」
気持ちラリった喋り方で上に戻る。

少し横になっていたが、気持ち悪い。
涼介の声で階下に下りる。フワフワして、階段を転がるんじゃないかと思う勢いで下りると、父は帰宅して普通に晩飯を食べていた。イラついて、食ってかかろうとするわたしを、涼くんがすばやく連れて行く。
「ちょっとドライブしよーか。」
「行く〜♫」
わたしはフラつきながら、靴を履く。

 涼介がフラフラ歩くわたしを支えながら車に連れて行く。
「う〜ん…きもちわる〜い♫あは♪」
「病院行かんやったん?」
「うん♪くそ親父がいーって♫りょ〜く〜ん、お腹空いた〜♪」
「コンビニでなんか買う?」
「フランクフルトがい〜♫」

 涼介はコンビニでフランクフルトを買ってきてくれた。…が、半分食べたところですごい吐き気がして、わたしは車から下りて吐いた。
「も〜いらな〜い♪」
残りの半分を涼介に押し付け、
「ちょっと歩く〜♫」
言うが早いかで、歩き出す。案の定、コケそうになったわたしを支える腕。
「ほら、帰るぞ!」
「え〜………」
文句を言いながらも、車に乗せられて強制送還される。

 帰り着いても、わたしのわがままは止まらない。
「りょ〜くん、泊まってよ〜」
「ダメだよ!迷惑だろ?」
「い〜よね〜!病院にも連れて行かんっちゃき…これくらいよかろ〜?」
 わたしの口ぶりに悪意が見えたのか、母が慌てて口をはさむ。
「涼介くんが迷惑でなければ、是非……。」
「りょ〜く〜ん♫迷惑じゃないよね〜♪」

 半ば強引に泊まることになった。
 その夜は大変だった。体温調節がきかず、震えるほど寒くなり、涼介にくっつくかと思えば、体が燃えるように熱くなり、一人で転がり回ったりを繰り返し、寝付いたのは深夜だった。

 何度かODを繰り返したが、死ねないことがわかったわたしは、セーフティガードのない剃刀を購入していた。数回目のODの後、涼介とのデートの帰り、わたしはわざとバッグを車の中に置いたまま部屋に戻り、涼介に取りに行かせた。その僅かな間に渾身の力で手首を切った。

 白い脂肪が見え、そのワキから溢れる血液。やっと終われる。そう思った。けれど、気を失う前に、聞こえる声。涼くんが父に知らせ、二人でわたしを担ぐ。手首はタオルで押さえ………そこで、意識は途絶えた。

 目が覚めると、また白い天井……。また失敗……。父の怒声も耳を通り抜けていく。

 2度の自殺未遂ということで、帰り際、精神科を紹介され、予約を取ったから連れて行くようにと言われた。
父は
「わかりました。」
と答えた。

 精神科を初めて受診した頃は、わたしは野良猫のようだったらしい。先生から
「お父さんも同席してもらう?」
と聞かれて
「任せるよ!ただ、父ちゃんの心が痛むだけのような気もするけど、それでもよければどうぞ?」
と言うと、父は
「よろしくお願いします。」
と苦い表情で席を外した。

その先生は石原(いしはら)先生といった。40代に見えるイケメン先生で、わたしはすぐに気に入った。
 初診で5年以上の治療が必要と判断した先生は、帰り際、父に書類を渡して、自立支援の申請をするよう伝えた。

 その後は週に1回の通院を予約して帰った。

 先生に言われて書き出した詩は、2年間で、500近くになった。摂食障害、安易なSEX、援交、リスカ…その他もろもろが詰まった、ビックリするほど長い詩集は、今は小学3年生の娘に預けている。

 涼介とは1年ちょっとて別れた。理由は続く浮気疑惑だった。涼介はトラックに無線機をつけていた。仕事に内緒でついていったときに。その無線仲間から漏れた情報だった。
 わたしは悔しくて、帰りの車のなかで涼介を叩きまくった。そして、家の近くの信号が赤になったとき、車から漏れた飛び出した。

 …帰る気には到底なれなかった。ガラケーに買い換えてもらっていたので、出会い系サイトに書き込む。『今から遊べる人いませんか?18歳の門司住みです。車持ちの人お願いします。』

 返信は面白いほどたくさん来る。その中から適当に選んで約束を取り付けた。

 摂食障害も酷いときは、過食の時は、定食を一人前、その後ラーメンを食べに行き、回転寿司を食べ、食パンを1袋食べ…気持ち悪くて指を喉まで突っ込んで全て吐き出したりしていた。
 それをやめろと怒られれば、逆に1日におにぎり1個食べるか食べないかの拒食になったりした。食欲の機能が停止したように、何を見てもおいしそうだと思えなくなっていた。
 手には吐きだこができ、常に胃液の味がするような気がしていた。

 わたしは、空きっ腹でアルコールと一緒にODをした。その時は、自分で救急車を呼んだ。
 何故か涼介に電話をかけると、
「お前が呼ばんなら、俺が呼ぶ!」
と言われたからだ。母に言うと、
「お母さん、もう誘導やらできんよ?どうすると?」
と、迷惑そうに言われたので、自分で救急車を誘導した。

 救急車が来て、隊員に担架を促されると、
「歩いて乗れるよ〜」
と言うわたしに、
「担架は決まりなので…」
と返す隊員。仕方なく担架に乗る。
「あ!!バッグ忘れた〜!!」
隊員にバッグを持ってきてもらうと、私は意識が途切れた。 

運ばれた先のベッドの上には、『大量服薬、もうろう状態』の文字…わたしはしっかりしてたっての!
 
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