蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
ファーストキスはイカゲソの香り
「むふふふ……」
同棲開始から三週間が過ぎた夜。私は浴室でひとり、不気味な笑いを漏らしていた。
白川家の檜風呂ではできなかった念願のバブルバス。浴槽からあふれそうな泡の中で、何度も泡を掬っては息を吹きかける。いっぺんこれをやってみたかったのだ。
しかし手のひらに盛った泡は、吹くとボトリとその場に落ち、ふわふわの白い湯面に濁った穴を開けるだけだった。
「……漫画みたいには飛ばないのね」
少しがっかりしたものの、手でかき回して泡を立てる。
ここまで私が浮かれているのには理由がある。今夜は蓮司さんが大阪出張で帰ってこない。三週間も緊張していた私は久々の自由に張り切っていた。今夜はやりたかったこと、我慢していたことを全部やるのだ。
しかし憧れのバブルバスも、三十分間も浸かっているとさすがに飽きてきた。元々は温泉派だ。
「次に行きましょう」
いそいそと浴槽から上がったけれど、あと片づけもしなければという貧乏くさい現実に立ち返る。
浴槽の栓を抜くと水位は下がったものの、大量の泡が中途で停滞している。世の女性みんなが泡風呂好きだったら、下水道は大変なことになるのではないだろうか。
心配しながら裸で浴槽を覗き込んでいた私は、泡が大方消えたところで浴槽を軽く洗い、ようやく次に進んだ。