蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 パウダールームの椅子に腰かけ、湯上がりの肌にボディクリームをたっぷり塗り込む。チェリーブロッサムという名前の香りで、別名「初恋の香り」とも呼ばれているフレグランスクリームだ。そのネーミングのせいで二十代後半に入った最近はレジに出すのが若干恥ずかしくなってきたが、長年愛用している。花を扱うことが日常だったため、普段は香水をつけない。お風呂上がりのボディクリームはささやかな香りの習慣なのだ。

 それから鼻歌を歌いながら顔のお手入れをする。緑色の泥パックはデスマスクのような薄気味悪い顔になるので、蓮司さんがいるときは控えていた。いつ入って来られるかわからない状況では、安心して所要時間十五分のデスマスクになれない。

 古い日本家屋で生まれ育った私には、このマンションのバスルームは衝撃だった。
 寝転べるほど広いバスタブ、優雅なパウダールーム。まるでホテルのスイートルームの仕様だ。そんなバスルームでは自然とお肌のお手入れが楽しくなる。今日は蓮司さんの帰宅を気にしなくていいからなおさらだ。


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