蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「どっちにしようかな……」


 愛用のジャージと可愛い部屋着を両手に持ち、しばし迷う。今夜は自室限定だったジャージを全エリア解禁で満喫するはずだった。当初はそのつもりだったのだ。でも結局、私が選んだのは可愛い部屋着だった。

 最近は自分の部屋でもジャージを穿くことがなくなった。蓮司さんに毎朝起こしてもらうからという理由であれば、今夜に限りそれは気にしなくていいはずなのに、もうそろそろジャージは卒業かな、なんて考えてしまう。


『乃梨子ちゃん、男できたんか?』


 更衣室で小舟さんに受けた指摘を思い出す。


『最近、色気ムンムンだがね』

「いやいや、違う違う」


 マンションのバスルームで思わず否定する。あくまでも私は蓮司さんが縁談を断るよう仕向けるためにここにいるのであって、間違っても元々ない色気など発動してはいない。

 その証拠に、躍る足取りでキッチンに向かった私が冷蔵庫からいそいそと取り出したのは、帰りにコンビニで買ってきたカップ酒。


「冷えてる冷えてる」


 それから同じくコンビニで調達したイカゲソの袋をお盆にのせ、ルーフテラスを望むリビングに向かった。


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