蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 端っこを小さくかじり、カップ酒をちびりと飲む。


「フォアグラより断然イカゲソよね」

「……そうみたいだな」


 なぜかギターの調べにあの男の声が混じった。この三週間で、私は幻聴が起きるほどストレスを感じていたらしい。

 イヤホンの音量を上げ、もうひと口カップ酒を飲もうとしたら、わずかしか残っていなかった。がっかりして空のカップを置く。手探りで次のカップを開けるのは無理だし、もうかなり酔ってきたから明日の仕事のために諦めることにした。


「ほら」


 ところが二度目の幻聴とともにパコッと蓋を開ける音がして、私の手にカップ酒が握らされた。
 さすがにおかしいと気づき、私はアイマスクを引っ剥がして飛び起きた。


「な……な……なんで?」


 これは幻覚だろう。幻覚であってほしい。そうでないと非常にまずい。
 目の前には、ここにいるはずのない鷹取蓮司がネクタイを緩めたシャツ姿で、ソファーの前の肘掛け椅子に座って私を眺めていた。


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