蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
「……帰ってきてよかったんですか?」

「接待だから抜けても構わない」


 どこの接待、という質問は飲み込んだ。それがどこであっても、今は大した問題ではなかった。
 なぜだろう? ひどく動揺しながら、彼が帰ってきたことがうれしかった。なにをやっても足りなかったあとのひとつが、これでようやく揃った気がした。そんなはずはないので、これは幻覚なのだろう。カップ酒の現場を押さえられた衝撃から逃れるため、私の頭はそう解釈した。

 私が黙って彼を見つめていると、蓮司さんは「酔ってるな」と呟いた。


「……嫌いになりましたか?」


 幻覚の中では性格も変わるらしい。私の口からは普段なら有り得ない素直な質問が飛び出した。


「どうして?」

「こんなんだから」

「ならないよ」


 彼はそう答え、いきなり身を屈めたかと思うと、さきほど私が下ろした脚を持ち上げた。びっくりしているのに、酔っているせいで咄嗟に反応できない。素足に彼の手が触れ、そこから不思議な感覚が全身に広がった。アルコールよりもっと甘く強烈ななにかが。


「細い脚だな」


 彼は私の脚を元通り椅子に乗せた。


「今日は披露宴を二件掛け持ちしたんだろ。お疲れだったな」


 蓮司さんがこんなに優しいのは有り得ないから、これはやはり幻覚なのだろう。


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