蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 私は立ったまま、正面に座る彼の目を真っすぐに見据えた。


「それなら黙って落とせばいいことではありませんか?」


 そう言い放つと深々とお辞儀をした。


「失礼いたします」


 背を向け、毅然と顔を上げて出口に向かう。
 言うべきことは言った。プライドも守った。礼儀も失さなかった。敗軍として、ここまでは立派だった。

 しかしあと一歩でドアに着くという最後の最後で、八センチヒールに慣れていない私は派手に足首をひねって転倒してしまったのだ。


「大丈夫ですか?」


 立ち上がったらしい椅子の音とともにそんな声が背後から聞こえたけれど、私は彼に一瞥もくれなかった。


「大変失礼いたしました」


 バッグを掴んで立ち上がり、威厳を保って──少なくとも自分ではそのつもりで──部屋を出る。本当は叩きつけたかったけれど楚々とドアを閉め、そこからは足を引きずりながら猛然とホテルから飛び出した。

 こんなホテル、二度と来るものですか。
 あんな男がいる会社なんてこっちから願い下げよ!


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