蜜愛婚~極上御曹司とのお見合い事情~
 警察官が入ってきて、私のスマートフォンを渡してくれた。騒動の中で乗客の誰かが被害女性のものだと駅員に届けてくれていたらしい。無事に手元に返ってきたスマートフォンは画面が少し割れていた。それを見たら、ずっと我慢していたのに涙が滲んできた。


「すみません」


 俯いて涙を拭う。もうこれ以上は頼るまいと思うのに、彼の前で涙を見せた自分が情けなかった。


「今日は担当のバンケットはないだろ。家まで送るから会社は休め」

「大丈夫です。こんなことで職場に迷惑かけたくないです」

「橘部長には俺から連絡を入れてる」

「でも、行きます。大丈夫ですから」


 ふたりで並んで座る長机の無機質なスチールに沈黙が落ちる。

 膝の上のスマートフォンを握り締めながら、蓮司さんは私の仕事のスケジュールを把握しているんだなと考えた。昨日だって私がふたつ披露宴をこなしたことを知っていたんだもの。


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